フリーランスになって最初の確定申告のとき、私は経費をほとんど計上していませんでした。「なんとなく怪しいことをしてる気がして怖い」という、根拠のない不安があったんですよね。
でも逆に、3年目に入ったころは「これも経費にできるんじゃ?」という方向に振れすぎて、税理士さんに「さすがにそれはダメですよ」と止められたこともありました。
今回は、私が3年かけてやっと腑に落ちた「経費の正しい考え方」をまとめます。最初からこれを知っていたかった、と心底思う内容です。
目次
「経費で落とせる」と思っていた、あの頃の私の誤解
3年間、私がやらかしていたこと
1年目の確定申告で、私が経費として計上していたのはほとんどソフト代くらいでした。Adobe CCの月額費用だけ。それ以外は「よくわからないから申告しなくていいや」と放置していたんです。
結果的に、その年の所得税はかなり多めに払っていたはずで、今思うと本当にもったいない話でした。
2年目になってから「経費ってもっと計上できるらしい」ということを知りはじめて、今度は逆方向に走りすぎた。仕事のあとに飲んだビール代、なんとなく仕事っぽい気がしたから経費に入れてみたり(当然ダメです)。自分へのご褒美で買ったバッグを「仕事のときも使うから」と計上しようとしたり。
これ、フリーランス1〜2年目あるあるだと思うんですが、要するに「経費の判断基準」がよくわかっていないんですよね。
「経費=節税の魔法」ではなく「事業との関連性」が全て
根本的なことを言うと、経費(必要経費)の定義はシンプルです。
「事業を行うために必要な支出」かどうか、ただそれだけ。
所得税法では、事業所得は「総収入金額 − 必要経費」で計算されます。だから経費が増えれば課税される所得が減り、結果として税金が安くなる。これは事実です。
ただし「節税のために経費を増やす」という発想は根本的に間違っていて、経費を計上してもその分の支出は実際に出ていっているわけで、手元のお金が増えるわけじゃない。あくまで「事業のために使ったお金を正しく申告する」というのが本来の意味です。
この「事業との関連性があるかどうか」という軸さえ持てれば、グレーゾーンの判断もずいぶんクリアになります。
デザイナーが計上できる主な経費と勘定科目(一覧表)
フリーランスのグラフィックデザイナーとして、私が実際に計上している(または計上できる)経費をまとめました。勘定科目と一緒に確認してみてください。
| 支出の内容 | 勘定科目 | 備考 |
|---|---|---|
| Adobe CC、Figmaなどサブスク | 支払手数料 または 通信費 | 事業専用なら全額OK |
| フォント購入・素材購入 | 新聞図書費 または 消耗品費 | ダウンロード型は消耗品費が一般的 |
| PC・タブレット・モニター | 工具器具備品 または 消耗品費 | 10万円未満なら全額一括計上可 |
| 書籍・デザイン資料 | 新聞図書費 | 仕事に関連する内容であればOK |
| セミナー・勉強会の参加費 | 研修費 | 業務に関連する内容であることが条件 |
| 仕事用スマートフォン | 通信費(按分) | プライベート兼用は按分が必要 |
| 自宅の家賃・光熱費 | 地代家賃・水道光熱費(按分) | 業務使用割合で按分 |
| 交通費(打合せ等) | 旅費交通費 | 目的・日付・行先を記録 |
| クライアントとの食事代 | 接待交際費 | 相手・目的を記録しておくこと |
| 名刺・印刷物 | 広告宣伝費 または 消耗品費 | 事業PRが目的のもの |
| 振込手数料 | 支払手数料 | 見落としがちだが計上できる |
ソフトウェア・サブスク(Adobe CCなど)はどう仕訳する?
Adobe CCやFigmaなどのクリエイティブ系ツールは、月額または年額で課金されるサブスクリプション型が多いですよね。これらは支払手数料または通信費で計上するのが一般的です。
私はずっと「通信費」で統一していましたが、税理士さんに「どちらでも問題ないけど、継続して同じ科目を使うことが大事」と言われました。年度途中で勘定科目をコロコロ変えると、後で見返したときに混乱の原因になります。
事業専用のサブスクであれば100%経費として計上できます。
フォント購入・素材費の正しい科目
フォントや素材の購入費は、新聞図書費か消耗品費で計上します。
ダウンロード購入型(一回買い切り型)は消耗品費、定期ライセンス型は支払手数料や通信費で計上するケースが多いです。金額が小さいものは消耗品費で一括処理するのがシンプルで楽ですよ。
機材・PCは「少額減価償却の特例」を使いこなす
10万円以上の備品は本来、減価償却という形で数年かけて経費化する必要があります。でも、青色申告をしている個人事業主(従業員数が一定以下の場合)は、30万円未満の資産を一括で経費計上できる「少額減価償却の特例」が使えます。
つまり、20万円のMacBookを買っても、その年に一括で経費計上できる。これはかなり大きい制度なので、青色申告をしている方はぜひ活用してください。
家事按分の正しい計算方法
面積按分のやり方(私の自宅兼仕事場の実例)
自宅で仕事をしているフリーランスにとって、家賃・光熱費・通信費などを「家事按分」で経費計上できることはよく知られています。でも「どうやって計算するの?」と迷う人も多いはず。
最もシンプルで一般的なのが面積按分です。
私の場合、2LDK(約55㎡)の部屋で仕事専用スペースとして使っているのが書斎の約8㎡でした。計算式はこうなります。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 自宅の総面積 | 55㎡ |
| 仕事専用スペース | 8㎡ |
| 按分割合 | 8 ÷ 55 ≈ 14.5% |
| 月家賃(仮)10万円のうち経費 | 約14,500円 |
この「仕事専用スペース」というのがポイントで、仕事もプライベートも兼用している部屋(リビングなど)は按分対象から外した方が安全です。仕事専用と言い切れる空間だけを計上するのが原則です。
時間按分(1日のうち仕事している時間 ÷ 総時間)を使う方法もありますが、記録が大変な割に按分割合が大きく変わらないことも多いので、面積按分の方がシンプルでおすすめです。
50%を超える按分は税務署に疑われやすい理由
家事按分で「自宅の50%以上を仕事に使っている」と申告するケースがありますが、これは税務署からの注目度が上がります。
「本当に半分以上を仕事スペースに使っているの?」という合理的な疑問が生まれやすいからです。50%を超えるなら、使用実態を証明できる根拠(間取り図・写真・業務日誌など)をしっかり残しておくことが重要です。
実態がないのに按分割合を大きくするのは論外ですが、実態があっても証拠がなければ認められないリスクがある。この点は注意してください。
グレーゾーン経費の判断基準
カフェ代・外食費はどこまで経費になるか
「カフェで仕事したときのコーヒー代って経費になるの?」
これ、フリーランスなら一度は考える疑問だと思います。答えとしては「業務上の必要性が認められれば計上できるが、証明できない場合はグレー」です。
私が実践しているのは、レシートの裏に「何の仕事のためか」を書いておくこと。たとえば「〇〇案件の打合せ前の資料確認、スタバ渋谷店」のようなメモを残しておきます。これだけで業務関連性の説明がしやすくなります。
反対に「なんとなく気分転換に入ったカフェ」はプライベートです。仕事をしていたとしても、それが主目的でなければ経費計上は難しい。
クライアントとの打合せ代、仕事上の情報交換を目的とした食事であれば接待交際費として計上できます。この場合も「誰と・何のために・いつ」をメモしておくことが大切です。
仕事着・セミナー参加費・書籍代の扱い
| 支出 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 仕事で使うスーツや制服 | ○経費になりやすい | 業務専用として使用する場合 |
| 普段着(プライベートでも着る) | ✗経費にならない | 家事費に該当 |
| 業務関連のセミナー参加費 | ○経費になる | 研修費として計上 |
| 読書一般・自己啓発本 | △グレーゾーン | 業務との関連性が問われる |
| デザイン・業界専門書 | ○経費になる | 新聞図書費として計上OK |
「仕事に関係ある気がする」という感覚だけでは難しいケースも多い。特に衣類は「プライベートでも着られる」という時点で、税務署にはなかなか認めてもらえません。
「経費にならない」と知って驚いたもの一覧
国民健康保険料・国民年金・所得税は経費にならない
これは私が最もびっくりした事実のひとつです。
個人事業主が毎月払っている国民健康保険料、国民年金保険料——これらは経費(必要経費)ではなく、所得控除として扱われます。確定申告の際に所得から差し引けるので節税効果はありますが、「経費として事業の収支に含める」ことはできません。
同様に、所得税・住民税も経費にはなりません。これらは所得に対してかかる税金なので、事業の必要経費とは性質が異なります。
| 支出 | 経費or控除 | 備考 |
|---|---|---|
| 国民健康保険料 | 社会保険料控除 | 経費ではない |
| 国民年金保険料 | 社会保険料控除 | 経費ではない |
| 所得税・住民税 | なし(経費・控除ともに不可) | 経費計上は不可 |
| 小規模企業共済の掛金 | 小規模企業共済等掛金控除 | 全額所得控除 |
| ふるさと納税 | 寄附金控除 | 経費ではなく控除 |
「払ってるのに経費にならないの?」という気持ちはよくわかるのですが、仕組みが別なんですよね。ただ、所得控除として申告することで税金は減りますので、漏れなく申告することが大事です。
プライベートとの按分を忘れた支出
スマートフォン・自宅のインターネット回線・車などは、仕事でも使っているなら按分して経費計上できます。でも「仕事でも使っているから全部経費」とするのはNG。
プライベートで使っている部分は家事費として切り分ける必要があります。スマートフォンなら仕事での使用割合を合理的に見積もって(たとえば40%など)、その割合分だけ計上するのが正しいやり方です。
税務調査で指摘されやすいポイント
接待交際費の証拠が曖昧だと狙われる
税務調査で最も指摘されやすい経費の筆頭が接待交際費です。
「誰と」「何を目的に」「いつ」使ったのかが明確でないと、「プライベートの飲食代を経費に混ぜているのでは?」と疑われやすい。対策はシンプルで、レシートや領収書に「〇〇社△△さんと案件打合せ」などのメモを残しておくことです。
また、売上に対して接待交際費が異常に多い場合も注意されやすいです。売上100万円なのに接待交際費30万円、というのはどう考えても不自然ですよね。
領収書の保存期間(青色7年・白色5年)
経費として計上したものは、領収書・レシートを保存しておく義務があります。
- 青色申告:7年間保存
- 白色申告:5年間保存
電子データでの保存も認められており(電子帳簿保存法の改正により要件が整備されています)、スキャンやスマホ撮影で管理している方も増えています。ただし、保存ルールを満たしていないと原本として認められないケースもあるため、会計ソフトの機能を活用するか、税理士に確認しておくのが安心です。
「捨てても大丈夫でしょ」と思っているレシートが、数年後の税務調査で必要になることもあります。面倒でも保存を習慣にしておいてください。
まとめ:経費の判断軸は「事業のためか」一点
3年かけて私が学んだことをひと言でまとめるなら、「これは事業のために使ったお金か?」と自分に問い続けることです。
- YESなら計上できる可能性がある(按分も含めて)
- NOなら計上しない
- 判断が難しいなら記録を残して専門家に相談する
最初は「経費にできるもの全部計上したい」という気持ちが強くなりがちですが、やりすぎると税務調査のリスクが上がるし、そもそも支出があるわけなので手元のお金は増えない。「正しく・漏れなく計上する」というスタンスが一番健全だと思っています。
freeeやマネーフォワードなどの会計ソフトを使っていると、勘定科目の候補が自動で出てきたり、過去の履歴から学習してくれたりするので、最初の頃よりずっと楽になりました。それでも迷う部分は税理士さんにまとめて確認するのが一番確実です。
確定申告の時期だけバタバタするのではなく、日々の記録と領収書管理を習慣にしていくこと。これが、フリーランス3年目でやっと本当の意味で理解できた「経費との向き合い方」です。