「フリーランスには退職金がない」——ずっとそう思っていました。
会社員だった友人が退職金の話をするたびに、なんとなく羨ましかった。でも調べてみたら、フリーランスにも退職金を作れる制度があったんですよね。それが「小規模企業共済」です。
私はフリーランス5年目まで完全にノーマークでした。加入したのは法人化のタイミング。正直もっと早く知りたかった制度なので、この記事でまとめておきます。
目次
小規模企業共済って何?3行でまとめると
制度の概要を一言でいうと、フリーランスや中小企業の経営者向けの「積み立て式退職金制度」です。
運営しているのは独立行政法人の中小企業基盤整備機構(中小機構)。国が後ろ盾になっている制度なので、民間の保険商品とは信頼性がまるで違います。
ポイントをざっくりまとめるとこうです。
- 月1,000円〜70,000円の範囲で自由に積み立てられる
- 掛金が全額所得控除になる(節税効果あり)
- 廃業・退職時に共済金として受け取れる(受け取り時も税優遇あり)
- いざというとき、積み立て額を担保に低金利で借りることもできる
「節税しながら将来の資金を積み立てる」というのが、この制度の一番のうまみです。
私が後回しにしていた理由と、加入を決めた瞬間
フリーランス1〜4年目は、老後のことなんて正直考えていませんでした。目の前の案件で精いっぱいだったし、「まだ若いし、もう少し稼げるようになってから考えよう」と思っていた。
転機は確定申告でした。
フリーランス4年目、初めて税理士さんに確定申告をお願いしたとき、所得税の額を見てぞっとしたんですよね。売上が増えた分だけ税金も上がる、当たり前のことなんですけど、改めて数字で見るとけっこうこたえました。
そのとき税理士さんに「小規模企業共済、検討してみましたか?」と聞かれたのが最初のきっかけ。制度の名前は聞いたことがあったけれど、ちゃんと調べたことはなかった。「退職金みたいなものですよ」という一言で、ようやく自分ごととして考え始めました。
正直そのときはまだ動けなかったのですが、法人化のタイミングでようやく加入しました。「あと3年早く入っていたら……」というのが今の正直な気持ちです。
最大のメリットは「掛金が全額所得控除」になること
仕組みをシンプルに説明すると
毎月の掛金は、確定申告(または年末調整)で「小規模企業共済等掛金控除」として所得から丸ごと引けます。
たとえば年間48万円(月4万円)を掛金として払った場合、その48万円はそもそも課税対象にならない、ということです。払った税金が戻ってくるのではなく、最初から課税されないイメージです。
所得別の年間節税シミュレーション
節税額は、所得が高いほど大きくなります。
| 課税所得 | 掛金(月額) | 年間掛金 | 節税額の目安 |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 3万円 | 36万円 | 約7万円 |
| 500万円 | 5万円 | 60万円 | 約20万円 |
| 700万円 | 7万円 | 84万円 | 約30万円 |
| 900万円 | 7万円 | 84万円 | 約36万円 |
所得が高い時期ほど、掛金を最大にしておくほうが節税効果は大きくなります。逆に、売上が少ない時期は掛金を下げることもできるので、状況に合わせて調整できます。
私が法人化後に掛金を設定するとき、税理士さんに「その年の利益見込みを教えてもらえれば、最適な掛金額を試算できますよ」と言われました。感覚で決めるより、ちゃんと数字で確認したほうが後悔がないです。
受け取るときも税優遇がある
積み立てた共済金を受け取るとき、一括受け取りなら「退職所得」、分割受け取りなら「公的年金等の雑所得」として扱われます。
退職所得には退職所得控除という大きな控除があって、たとえば20年加入していれば800万円以上が控除対象になります。つまり、積み立て中も節税、受け取るときも節税、という二重のメリットがある制度なんですよね。
もう一つのメリット:いざというとき低利で借りられる
これ、意外と知られていないんですが、小規模企業共済には「契約者貸付制度」があります。
積み立てた掛金の範囲内で、年利1.5%という低金利で借りることができます。フリーランスって、急に案件が減ったり、設備投資が必要になったりすることがあるじゃないですか。そういうときの「お守り」として機能してくれます。
借りられる金額は掛金の7〜9割程度が目安で、上限は2,000万円。加入から12ヶ月以上経過していれば申し込めます。
銀行融資と違って審査もないので、急ぎのときも動きやすいのが助かります。「事業で使うかもしれない」という不安を持ちながら積み立てるより、「いざとなれば引き出せる」と思いながら積み立てられるのは精神的に大きな違いです。
注意点①:20年未満で辞めると元本割れする
ここは正直に書いておかないといけない部分です。
小規模企業共済は、任意解約した場合、20年未満だと元本割れします。短期解約ほどダメージが大きく、加入1年未満で解約すると掛金は一円も戻ってきません。
| 加入期間 | 解約時の返戻率 |
|---|---|
| 1年未満 | 0%(全額消える) |
| 1〜7年未満 | 約80% |
| 7〜10年未満 | 約85% |
| 10〜15年未満 | 約90% |
| 15〜20年未満 | 約96% |
| 20年以上 | 100%以上 |
これが一番のデメリットです。「20年続けられる金額を設定する」ことが大前提。無理に高い掛金を設定して途中で解約、というのが一番もったいない使い方なので、最初の掛金設定は慎重に考えた方がいいです。
ただ、掛金は途中で増減できます。余裕があるときに増やして、売上が落ちた年に減らす、という使い方は問題ありません。ただし減額した場合、掛金の区分ごとに加入期間がカウントされるので、細かい計算が必要になります。迷ったら税理士さんに確認するのが安全です。
廃業や事業をたたむ場合は別の話で、そのときは「共済金」として支給されるので、任意解約より有利な条件で受け取れます。
注意点②:法人化したときの扱いに要注意
個人事業主として小規模企業共済に入っていた人が法人化すると、個人事業主としての資格を失います。
ただし、「同一人通算」という制度があって、個人事業主時代の加入月数を法人役員として引き継ぐことができます。これを使えば、加入期間がリセットされないので元本割れのリスクを大幅に下げられます。
注意点は、この手続きに期限があること。個人事業の廃業から1年以内に手続きしないと、通算できなくなります。
私は法人化のときにこの話を税理士さんから教えてもらって、ギリギリ間に合いました。法人化を検討している人は、このあたりを事前に確認しておくことをおすすめします。
iDeCoと何が違う?どちらを選ぶべきか
よく「小規模企業共済とiDeCoはどっちがいいの?」という話が出ます。
結論から言うと、まず小規模企業共済を優先して、余裕があればiDeCoも併用というのが私の考えです。
| 比較ポイント | 小規模企業共済 | iDeCo |
|---|---|---|
| 月額上限 | 70,000円 | 68,000円(個人事業主) |
| 所得控除 | 全額控除 | 全額控除 |
| 運用益 | 予定利率1.0%(固定) | 非課税(変動) |
| 元本保証 | あり(20年以上) | なし |
| 借入制度 | あり(年利1.5%) | なし |
| 手数料 | 無料 | 毎月数百円 |
iDeCoは投資信託などで運用するので、うまくいけばリターンが大きい。でも元本割れのリスクもあります。小規模企業共済は利率は低いけれど元本保証があって、借入にも使える。「貯める」と「備える」の両方をカバーしているのが強みです。
「iDeCoだけでいい」という意見もありますが、フリーランスにとって事業資金の借入先が一つあるという安心感は、iDeCoにはないメリットです。特に独立したての時期や、仕事が不安定な時期には、この貸付制度があるだけで気持ちが違います。
両方使うと年間で最大150万円以上を所得控除できるので、高所得の年は特に節税効果が大きくなります。
加入方法はシンプル。スマホでも申込できる
加入の手続きは、それほど難しくありません。思っていたより全然ハードルが低かったです。
必要なものは、個人事業主なら本人確認書類と口座情報だけ。法人役員の場合は法人の登記簿謄本も必要になります。
申込方法は2種類あります。
窓口申込: 商工会議所、商工会、地方銀行・信用金庫などで受け付けています。担当者に直接相談しながら手続きできるので、初めての人には安心です。
オンライン申込: マイナンバーカードとスマートフォンがあれば、中小機構の申請サービスからオンラインで完結します。窓口に行く時間がない人はこちらが便利です。
掛金はあとから変更できるので、まずは無理のない金額で始めてみる、というのが現実的だと思います。月1万円でも、10年続ければそれなりの資産になります。
掛金や共済金の試算は中小機構の公式シミュレーターで確認できます。加入前に一度試算してみると、イメージがつかみやすいです。
税理士に相談してから動くのがベスト
ここまで読んで「よさそうだな」と思っても、自分の所得状況に合った掛金の設定や、iDeCoとの組み合わせ方は、正直自分だけで判断するのが難しい部分もあります。
法人化後に節税の全体戦略を立て直したいときは、法人の税務に強い税理士に相談するのが一番の近道です。私は法人化のタイミングで税理士を探し直したとき、節税提案まで対応できる法人向け税理士を紹介する「税理士ベスト」を使いました。共済の掛金設定も含めて、トータルで考えてもらえる税理士を見つけられたのは大きかったです。
まとめ:フリーランスの「将来への備え」で、最初に検討すべき制度
小規模企業共済は、節税と老後資金の準備を同時にできる、フリーランスにとって数少ない制度です。仕組みは難しくないし、手続きも思ったよりシンプル。「知らなかった」だけで使っていない人がまだ多い制度だと思います。
使い方をまとめるとシンプルです。
- 所得が増えてきたら、早めに加入を検討する
- 無理のない掛金で始めて、余裕が出たら増額する
- 20年以上続けることを前提に金額を決める
- 法人化するなら「同一人通算」の期限を忘れない
「老後のことはまだ先でいい」という気持ち、すごくわかります。私もそうでした。でも積み立ての効果は、早く始めるほど大きくなります。節税という形で毎年お金が手元に残るわけだから、使わない理由がないとも言えます。
この記事が、早めに動くきっかけになれば嬉しいです。